おまけ:短い話
「ムシチョウおじさま」
あるところにムシチョウおじさまが住んでいました。
おじさまの島は本棚で囲まれており、島の中にもたくさんの本が溢れていました。
でも、おじさまはずいぶん長い間生きてきたので、それらの本を全部読んでしまって、とても退屈でした。
「じゃあ、力比べなんてどうですか。」
ユキムグリのお兄さんが言いました。
「あなたはずっとひとりぼっちだったから、こういう二人でする遊びは新鮮だと思いますよ。」
”ひとりぼっち”と言われて、おじさまは内心ムッとしましたが、何とも思ってないふりをして、その遊びはどうするのかと尋ねました。
お兄さんは本棚をちょっとずらして、外へ出ます。そして、おじさまを呼びました。
外は満天の星空で、遠くにはテントウムシの星座が見えました。
「”氷の息吹”でどちらがたくさん星を凍らすことができるか比べましょ。多い方が勝ちですよ。」
「勝ったらどうなるのだ。」
「さあ。」
そうして二人は丘の上に腰掛けて、ひゅうひゅうと冷たい息を吹きはじめました。
「帽子」
「ねえ見て、これかなり似合ってるでしょ。」
今日もジグザグがリィダの島に遊びに来ました。
その頭にはヤミショップの新製品、フェイクファーハットが乗っていました。
濃いピンクをしたピキの尻尾の飾りは、ジグザグのどぎついピンクの髪と同じ色で、まあ、それなりに似合っているみたいです。
「ねえねえ、ほらほら、ちょうかわいい。」
しかし、運悪くリィダは今日も妄想の世界の中にいたのでした。
リィダはジグザグがいる場所とは全然違う方向を見ながら「串刺し公万歳」と呟きました。
「ねえ、ちょっと、見てよ見て見て」
ジグザグはいつもの3倍くらいの強さでリィダをぶんぶんと揺さぶりました。
でも、毎日ジグザグにつきまとわれ、すっかり慣れてしまったリィダは、これくらいでは妄想の世界から戻ってきません。
「杭はヒノキで」とかわけの分からないことを呟いています。
ジグザグはリィダに回し蹴りを喰らわしました。リィダはやっと気づきました。
「似合ってるでしょ。」
リィダはジグザグの頭に大きなほこりが付いていると思って、はらってあげました。
ジグザグはリィダに回し蹴りを喰らわしました。
「歌」
ある日、いつものようにジグザグがリィダの島に居座っていたときのことです。
ジグザグが思いついたように言いました。
「ねえ、素敵な歌を教えてあげようか。」
そう尋ねて、リィダがウンともスンとも答えないうちに、勝手に歌い出しました。
ジグザグの歌声は、意外にも艶っぽく魅力的で、発声の達人という感じでしたが、同時に音程をはずすことにかけても達人級で、全ての音が見事にはずれていました。
聞く人のやる気を根こそぎ奪うようなひどさです。
ボーっと妄想していたリィダも、思わず我に返り、耳をふさぎました。
「どう、いい曲でしょ。」
リィダは首を振りました。
「この曲はね、『ツェペシュの幼き末裔』って言うんだ。いい曲でしょ。」
リィダは頷きました。
「君ってとてもわかりやすいね。」
機嫌を良くしたジグザグは、もう一度その曲を歌います。
リィダも一緒に歌いました。ボソボソしたよく通らない声でしたが、音程は元の曲を聴いてきたかのようにあっています。
二人のちぐはぐな二重奏は、その日の終わりまで続きました。
※ツェペシュっていうのは、ドラキュラのモデルになった串刺公ヴラド・ツェペシュのことだよ。
update:070618
「ソフィーと王様」
ある日私がおうちでご飯を食べていると、頭に寝癖と絆創膏のついた小さなケマリがやってきました。
その子は腕組みをしてジロリと私を睨むと、いきなりこんなことを言い出しました。
「おい、お前。/cureをかけろ。」
「え?」
「え、じゃない!いいからさっさとかけるんだ!」
「どうして?」
「ボクが怪我したからに決まってるだろ!早く次のモンスター退治に行きたいんだ!」
「寝癖ついてるよ。」
「これはアホ毛だよ!チャームポイント!」
何がどうなっているのかさっぱり分かりません。何でこの子は私より明らかに年下っぽいのに、こんなに偉そうなのでしょうか。
寝癖がチャームポイントとか言ってるし。
「早くかけろよ!トロイなホントに!」
「いや。」
「何でだよ!ボクが命令してるんだぞ!」
そんなこと言われたって、かけたいとは思わない、ということを言ったのですが、男の子は私の言葉を完全に無視して、かけろかけろと喚きながら私のまわりをグルグル回り始めました。
歩く度に寝癖がピョコピョコ揺れて私に当たるので、かなりくすぐったいです。
なんだか面倒くさくなってきた私は、
「きゅあ〜。」
と唱えながら、絆創膏をべりべりとむしり取りました。
「ほぎゃあああ!」
男の子は物凄い悲鳴を上げてうずくまりました。
「私/cure使えないの。」
「先に言えよ!何なんだよお前!」
それはこっちのセリフです。
「人の言うこと全然聞かないしさ。うぐっ、ボ…ボクのチャームポイント馬鹿にするし。ヒック、うう…。ボクは、ボクは王様なのにうわあぁあん!」
男の子は泣きながら帰っていきました。
私はいくら名前が「王様」でも、本当の王様になれるわけがないのになあ、と思いました。
update:081014
「蜘蛛」
※「咲き誇れ」を読んでいないと、分かりにくい箇所があります。
その日のジョロウグモ様はとても不機嫌でした。
大股で歩いてドレスを翻らせ、金色の目をギラギラ光らせてあたりを睨みつけています。
そして、行く先々でアイテムを吹っ飛ばし、リヴリーに噛みつき、ムシクイを踏みつけて大暴れしました。
ジョロウグモ様の通った後は、まるで何匹ものリヴリーが/stormをかけたかの様に、荒れ果てていました。
「何をそんなに怒っているんだ。」
知り合いのスズメバチが尋ねました。
彼は時折ジョロウグモ様の元にやってきては、からかってくるやつでした。
「頭の悪そうなリヴリーが妾のことを『鬼婆』と呼びおった。」
「なるほど。」
スズメバチはジョロウグモ様の顔をじっくり眺めて言いました。
「小皺が増えている。確かにババアのようだ。」
「黙れ!」
ジョロウグモ様はその辺に生えていた木を引っこ抜くと、スズメバチに投げつけました。
スズメバチはひらりとかわして逃げていきます。
「覚えておれ、小賢しい蜂め!おまえなど蜘蛛の巣で絡めとって喰ってやる!」
次の日、ジョロウグモ様は小賢しい蜂を捕まえるため、蜘蛛の巣を作ることにしました。
しかし、「蜘蛛の巣で絡めとってやる!」と言ったものの、実は今まで蜘蛛の巣など作ったことのないため、なかなくまくいきません。
四苦八苦しているところへ、別のジョロウグモがやってきました。
「何をしているの。」
「巣作り。」
「そう。」
ジョロウグモは興味なさそうに相づちを打つと、言いました。
「あなた、昨日攻撃されてもいないのに、リヴリーに噛みついたでしょう。」
「悪いか。」
「悪いわ。私、あなたの代わりに叱られたの。
私たち、皆そっくりでしょう?他に迷惑かけないで頂戴。」
「それはすまなかった。」
ジョロウグモ達は、皆同じ姿をしています。
身につけている黒とピンクのドレスも同じです。複雑に結い上げた髪型も同じです。
上品でいて気の強そうな顔立ちも同じで、口元のホクロまでそっくりそのままでした。
端から見れば誰が誰であるか見分けがつきません。ジョロウグモ達自身もたまに分からなくなるくらいです。
ジョロウグモ様は、ふと何故あの小賢しい蜂が、いつも間違えずに自分をからかいに来ることができるのかと思いました。
そして、なぜ自分はあいつをあいつだと認識することができるのか。
「それは恋だ。」
蜘蛛の巣に捕まり宙吊りになった小賢しい蜂が言いました。
ジョロウグモ様は鼻を鳴らしました。
「おまえを見るとイライラするから分かるだけだ。」
我ながら無理のある説明だと思いましたが、強がってそんな素振りは見せません。
「おまえは何故私だと分かるのだ。」
「小皺が多いから。いや、冗談だ。」
鬼婆のような顔で睨まれ、スズメバチは訂正しました。
「一番プライドが高そうなのが、あなただろう。」
「全くその通りだ。」
ジョロウグモ様は満足そうに笑うと、小賢しい蜂の首にガブリとキスをくれてやりました。
update:081014
※不定期に更新中
update:081014